【令和のエンジニアのリアルキャリア論】広告やポジショントーク要素を排除して考えてみる ②『出世したくない』から生まれるリスク
前回、【令和のエンジニアのリアルキャリア論】広告やポジショントーク要素を排除して考えてみる ①情弱と思われるリスク編 の続編です。
続編と言っても情弱は関係なくて、最近よく聞く≪Z世代:出世したくないけどオカネほしい≫的な話と、AI普及の影響を絡めた話ですかねぇ。
『出世』したい? したくない?
そも『出世』って、どういう状態を指すんでしょうねぇ。
コトバンクさん的には、『社会的に高い身分・地位を得ること』とあります。

社会的に高い身分・地位。 これって、係長とか主任さんではないですよね。社長さんとか、ある程度大きな会社の部長さんとか?
そんなのはねぇ、ぼくだって別に興味ないですよ。社長なんかやってるけどねえ、別に社長やりたくてやってるわけではないからねえ。
下記はパーソルキャリアさんの記事から引っ張ってきた画像。
パーソルさんリンク先

『今の会社で』・『出世』か。 これを若い世代に絞って聞いたら、どの世代でも似たような数字になった気がしますよ。ほか、他の調査では6割が『出世したい』と回答したなどと言うアンケート調査もあるようで、母集団や質問内容によっても差異が出るのではないかと言う気もしてきました。
パーソルさんの調査に恣意的な解釈や誘導があったかどうかはさておき。 近年、SNSやyoutube動画、ネット記事などでは、明らかに他世代にZ世代を批判させようと言う意図のものが多くみられます。これらの目的の多くは単純にインプレッション稼ぎと言え、意図的なものです。似たようなものには氷河期世代の負け組叩きや、新卒の給与が高いからと不公平感を煽ったりするものなどがある印象ですね。
広告目的でインプレッションを稼ぎたいアフィリエイター等のものも含むでしょうから、そういった意味では前回の①情弱と思われるリスク編の内容とかぶる部分になります。
寺野の周囲ではどんな感じ?
自社の人が社長に対して正直に答えるかは何ともなので、ここでは避けるとして。
他社の方。主に取引先関連の方の反応などを挙げますと、『上に行きたいか?』と言う質問に対しては、『そりゃ行きたいっすよ』と言う反応が多数派かなと言う印象です。上に行くと忙しいのはわかっているので、『カネはこのままでいいから偉くなりたくない』って人もいます。まあ、この人の場合は本人の意向とは関係なく昇進していってるようですが....。ともあれ、【別に上に行きたくない訳ではない】また、【役職と報酬はリンクしている】と言う認識は、みなさんお持ちの様です。
ただしこの反応はけっこうデカい上場企業の中のひとなどの反応になりますので、前提としてその様な偏りがあることにはご留意ください。これらの企業は新卒採用の上でもそこそこのハードルを設定しているはずですから、それによるフィルタリングの影響もあろうかと思います。
いわゆる大手のエリート層。実際にはSNSやyoutubeで語られるZ世代像とは異なる人物像のひとが多そうだ。そのくらいのことは言えそうですね。
管理職と、スペシャリスト職。
管理職を避け、スペシャリストの道を行きたい。このような方も多いかなと思います。
管理職は一般的にはゼネラリスト向きの役割と言われますし、スペシャリスト志向の方からの志望度が低くなるのは理解できる話ですね。
それはそれでよいのですが、しかし、よくある【非管理職 = スペシャリスト】と言う印象付けは、まあ、ウソです。ゼネラリスト・スペシャリストの定義はだいたい下記のようなものになります。
●ゼネラリスト
ゼネラリストとは、幅広い分野での経験・知識を持ち、さまざまな業務に対応できる人。物事を多面的に見る能力を持ち、柔軟性が高い者が多いと言われます。
職位の高い管理職ほど、複数の専門性を束ねることとなり、部門間の利害調整などを担当することになります。この際、複数の専門性や部門の経験のあるゼネラリストの方が、有利となります。例えば、プロダクトマネージャーなどは、マーケティング・財務・設計・生産・サポートなど、複数の部門に横串で関わることになりますので、典型的なゼネラリスト向きの役割となります。
●スペシャリスト
スペシャリストとは、ある特定分野において高度な専門知識やスキルを持つ人材を指します。技術職のほか、経理や営業なども専門分野を持つスペシャリスト職に当たります。一般的に専門分野を突き詰め、その専門性を活かすことにより発生する成果を重視する傾向があり、成果自体にプライドを持つ傾向もあります。ゆえに、成果主義的な評価方法を好む傾向もみられます。
わかりやすく(意地悪く)抽出しますか。
・特定分野において『高度な専門知識』やスキルを持つ
・専門能力による『成果』を重視する
はい。これらを持たない。重視しない方は、スペシャリストの傾向ではないのです。
スペシャリストではない。しかし、ゼネラリストの様に守備範囲を広げるでもない。むしろ、守備範囲を限定し、タスク量を可能な限り制限。『労働量当たりの報酬の効率を最大限に上げたい』このようなタイプの方が、『出世したくない』同胞たちのアンケート結果を見て安心しているとしたら、けっこうヤバい状態です。
とりあえずこの場ではこのタイプの方を、≪近視コスパ労働主義≫のひととでも呼んでおきましょうか。
『近視コスパ労働主義者』は、Z世代に限らない。
目先の条件重視で、なるべく楽したいけどなるべくカネもほしい。会社やビジネスにコミットなんかしたくない。故あれば、より目先の条件の良いところへ移動しよう。
Z世代はそういう『近視コスパ労働主義』の傾向とセットで語られやすいですが、ぶっちゃけぼく個人としてはZ世代に特に多いという印象はありません。どの世代にも一定数いるんじゃないですかねー。
もし増えたとしたら、それは氷河期世代くらいからではないかなと思います。
非正規雇用は『近視コスパ労働主義者』を生んでしまう。
たとえば、登録型派遣。雇用期間に定めのあるタイプの登録型派遣の場合、派遣労働者と派遣先企業はいつか別れる関係と言う事になります。
仮に派遣先企業が労働者に積極投資、スキルを高めたとしても、原則3年でその部署から離れることになります。派遣先は得をしません。
派遣労働者が派遣先のビジネスにコミットし、派遣先を勝利させたとしても、やはり原則3年で離れることになります。労働者は得をしません。
つまり、両者は長期的な利害を共有しない関係となります。互いに、投資をすると損をするのです。
ですので、お互いに投資は控えます。この場合の労働者側の正解ムーブは、【守備範囲を限定し、タスク量を可能な限り制限。投下労働量当たりの報酬の効率を最大限にする】と言うものになりますよね。これは致し方ないことです。
そしてこれは『近視コスパ労働者』の行動パターンに酷似します。非正規雇用での勤務時間が長いほど、経験が豊富であるほど、労働者の思考は『近視コスパ労働者』に寄ってしまうのです。派遣が増えたのは平成の長期不況期からですので、まさに氷河期世代のおじさんたちから『近視コスパ労働者』傾向の人が増えていった可能性はありますね。
そしていま、40代に差し掛かった氷河期世代が仕事を得る事に苦戦しているなどの状況があります。40代は企業で言えば中堅~上位レイヤーの主力社員層と言う事になりますので、増員・交代など募集とはポジションが合いません。ビジネスコミットも薄く、企業からの投資価値も低いタイプになりますので、スペシャリスト軸での応募でも即戦力要求となります。専門的能力が不足している場合はシビアにNG理由に直結します。
氷河期世代の不幸ばかりが取りざたされていますが、非正規雇用は年々増えていったわけですので、氷河期世代よりもあとの世代の方が、不利な経歴となる可能性は高めではないかなと思います。派遣はおろかフリーランスとか爆増してますしね。危機感も無いです。
現代の若者に関して言えば、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO業)の需要増加と言う要素もあり、これもまた、ゼネラリストではなく(請負業務の範囲内の経験に限定)、請け負う業務次第ではスペシャリストでもない(本来の職種のプロセス内の一部分だけを担当する)作業者のキャリアを生むことになります。 こちらは非正規雇用とは違い、自社(BPO業者)へのコミットメントがある可能性が高いので、『近視コスパ労働者』とはまた違うタイプとなるかと思いますが。
『近視コスパ労働主義者』はAIと競合する
どこがコスパええねん。って話にもなってきますな....。
『守備範囲を限定し、タスク量を可能な限り制限』は、他の人間が分業し、比較的単純で繰り返し要素の強い作業を担当していくムーブですし、また、業務上の責任を最小にするムーブです。 つまり責任を負う経験をせずに、AIが得意、自動化しやすい工程を中心に担当する動きと言う事になります。
もしスペシャリストであれば、深い専門知識や暗黙知等の経験値に基づく判断を行うことできます。AIへの指示、チェッカーのみならず、リスク判断や最終責任を負う立場を担当することができるでしょう。高度な専門領域では、『答えを出すこと』よりも『どの問いを立てるか』が価値になります。(何が正しい問いかを見抜く能力)この部分は依然として人間優位です。
AIは膨大な候補を出せますが、どの答えを選択するかはスペシャリストが判断する領域です。
ですが、専門的能力や成果へのプライドを持たない近視コスパ労働者は、スペシャリストたりえません。
もしゼネラリストであれば、部門間調整、利益の統合、不確実な状況での意思決定などを担当することができるでしょう。ゼネラリストの価値は、断片的な情報を束ね、最適解ではなく“納得解”を導く点にあります。これは純粋な計算処理とは性質が異なると言えます。つまり『全体最適を設計する』ことができます。(AIが得意なのは部分最適)
ですが、守備範囲・責任範囲をを限定しようとする近視コスパ労働者は、ゼネラリストからは遠い存在です。
AIが代替するのはあくまで、『効率化(分業化)された作業』です。
近視コスパ労働者はこの作業の『処理』の側に立つのに対して、優秀なスペシャリストやゼネラリストは『構造』の側に立つ。効率化を設計する側です。
この違いが、そのままAIとの距離を決定づけています。
言うまでもないですが、AIやロボットと正面から戦ってはいかんのです。中長期視点でのコスパを考え、キャリア・就業先を考えなくてはいけません。

処理側から構造側に脱するには、何が必要か
脱する気があればって話ではありますが。結論は、
短期合理性を選ばざるを得ない構造から、長期的に報われる構造へ移行すること。
と言う事になります。
精神論ではなく、インセンティブ設計の問題ですね。
しかし、行動は順を追う必要があります。
① 能力の拡張
─ 処理者から構造側へ移る準備
● スペシャリスト軸
横に広げるのではなく、縦方向に掘ること。
※全く関係ない作業をいろいろ習熟するなどは横。ITで言えば、プログラム言語を複数覚えようなど。縦は、担当工程を広げ、業務知識などの専門分野を掘る成長。
- 表層スキルではなく構造理解
- ツール操作ではなく原理理解
- 作業ではなく設計視点
AIが置き換えるのは手順。
置き換えにくいのは原理を理解している人間。
● ゼネラリスト軸
守備範囲外を“知らない”状態から脱する。
他部署の論理
- 収益構造
- 意思決定の背景
情報を知ることではなく、利害を理解すること。
全体構造が見える人は、単なる作業者ではなく“接続者”になる。
飲み会嫌ですとか言ってる場合じゃないわな。
② 関係の長期化
近視は個人の弱さではなく、短期関係の副作用。
要は、長期就業できる先に就職しよう。と言う話。
しかし、長期前提で投資し、リターンが得られる先を選択する必要があります。
ここで搾取型企業を選んだら、いい餌になって終わりです。
- 企業の専門領域が合うか。
- 戦略は現実的に実現可能か
- 育成投資をしているか
を基準に就職・転職する。
会社と自身の専門分野が一致しているならば、仕事が選べるかどうかとかそういう次元にはならないはずです。
育成投資をしない会社であれば、どんだけ目先の報酬が良くとも、その先の停滞がセットとなります。
戦略が無ければ、企業の組織力は集中運用されません。戦略は重要です。ただし、具体的・現実的に実現可能なものでなくては意味がありません。実現不能な夢だけを語る企業は、そもそも実現させる気がありません。(お気持ちだけ)
そして入社後は、
戦略にコミットする。
目の前の“業務”ではなく全体の“方向性”に乗る。
視座を上げて、専門能力や収益構造の理解などを活かす必要があります。
③ 責任範囲の拡張
─ 非代替性の獲得
責任は負債ではありません。ことAI時代においては参入障壁。
あなたはここまでのステップで、自社の戦略を理解し、スペシャリストまたはゼネラリストとしての能力を活かすことができています。あなたは、全体最適を考えつつ、自分で考えて正しい結論を出すことができます。
- 判断責任
- 設計責任
- 結果責任
等を一部でも引き受ける。それができます。
責任を引き受けた瞬間、あなたは作業者ではなくなる。
AIは提案できる。だが、責任は取りません。あなたはAIと競合する側ではなく、AIを使う側になりました。
処理側から構造側への移動は完了しました。
ただし、搾取構造に注意
当然ですが、長期的に関係したとしても、報われようのない相手と組んではダメです。
いかに長期的に関与しても、価値が分配されない構造の中では報われない。ここで言う『価値の分配』には、報酬額のみならず、獲得できる専門性(縦)や得られる経験なども含みます。
育成投資をせず、責任だけを押し付け、単価競争に依存する企業と組めば、努力はするだけ吸い込まれることになります。
戦略が『事業売却による代表者の勝ち逃げ狙い』などであれば、その企業に継続性は必要ありません。短期的に売却額を最大化することを戦略上重視するでしょう。やはり育成などの投資は行われません。
責任を求めながらも裁量を渡さない企業も論外です。責任と権限は一致していなくてはいけないというのが組織論の原則です。責任を果たすことができず、ペナルティを受けるだけの経験になるでしょう。
近視コスパ労働主義は、個人の弱さのみから生まれるものではありません。短期的な関係と、分配されない構造が生み出す合理的な帰結のひとつです。それゆえにある種の説得力も持ちます。しかしながら、その合理性はあくまで近視眼的なものであり、長期的には不利になる可能性が高いです。高齢氷河期世代の苦境はそのような構造が生んだと、ぼくは考えております。
そこへ、AIの登場。苦境で済めばマシ。と言う時代が到来することがほぼ確実に。現在ですら氷河期世代は救われておりません。おそらくは将来にわたってそうなるでしょう。誰かに助けられることに期待して対処を怠るというのは、あまりにリスクが高く、リターンが少ない愚かなギャンブルであると言えます。脱する必要があります。
しかし、脱するためには努力だけでは足りない。
深さを持ち、構造を理解し、責任を引き受けること。
そして同時に、その価値が正しく評価される場所を選ぶこと。
単に長く関わることが正解なのではありません。
報われる構造と長く関わることが、条件である。
AIと競う側に立つか、AIを使う側に立つか。
その分岐は、能力だけでなく、立ち位置と環境の選択によって決まります。
皆様の職業人生が、良いものであらんことを。
書いた人…寺野 克則
技術的な話もするのでエンジニアと思っている人が多いけれど、実際には営業系の経歴。(Twitterも【寺野 克則(ITだけど営業視点のアカ)】と、営業系を押し出しているのに。サムネ画像の印象が強すぎるのか。) 商品は【会社の技術】なのだから、商材を知らなすぎる営業ってふつうはあり得ないんだよ。論外。 ITには20年くらいいて、その前は法人向け通信機器販売。アレ系。 転職回数がめちゃ多く、それによりさまざまな業態からIT業界を見ることに。サービス・人材派遣・人材紹介・SES・ソフトハウス。 派遣で工場行ったこともあるよ。 リーマンショックがトドメとなり、営業としてまっとうな企業に正面から入社できる確率よりも、自分で作った方が確率高い(リスクも低い)なってことで起業。 業界の知見だけはあるのでそれを活かしてWantedlyブログやTwitter。まあまあバズったのと、ほかにもいろいろで、自前ブログに記事を載っけていくことにした。



